定期演奏会を開催します
庭を東へ二十歩に行き尽
すと、南上がりにいささかばかりの菜園があって、真中
に栗
の木が一本立っている。これは命より大事な栗だ。実の熟する時分は起き抜けに背戸
を出て落ちた奴を拾ってきて、学校で食う。菜園の西側が山城屋
という質屋の庭続きで、この質屋に勘太郎
という十三四の倅
が居た。勘太郎は無論弱虫である。弱虫の癖
に四つ目垣を乗りこえて、栗を盗
みにくる。ある日の夕方折戸
の蔭
に隠
れて、とうとう勘太郎を捕
まえてやった。その時勘太郎は逃
げ路
を失って、一生懸命
に飛びかかってきた。向
うは二つばかり年上である。弱虫だが力は強い。鉢
の開いた頭を、こっちの胸へ宛
ててぐいぐい押
した拍子
に、勘太郎の頭がすべって、おれの袷
の袖
の中にはいった。邪魔
になって手が使えぬから、無暗に手を振
ったら、袖の中にある勘太郎の頭が、右左へぐらぐら靡
いた。しまいに苦しがって袖の中から、おれの二の腕
へ食い付いた。痛かったから勘太郎を垣根へ押しつけておいて、足搦
をかけて向うへ倒
してやった。山城屋の地面は菜園より六尺がた低い。勘太郎は四つ目垣を半分崩
して、自分の領分へ真逆様
に落ちて、ぐうと云った。勘太郎が落ちるときに、おれの袷の片袖がもげて、急に手が自由になった。その晩母が山城屋に詫
びに行ったついでに袷の片袖も取り返して来た。
